この映画自体は250億稼ぐ程の品質で制作された映画ではない。だからこそ、煉獄さんが『千と千尋』を超える瞬間を見てみたい〜『鬼滅の刃 無限列車編』

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見てきた。

感想はタイトルに書いた通りである。
語弊がないように書かせてもらうが、普通に泣いた。特に炭治郎がに刀を猗窩座に投げて叫ぶシーン、めっちゃ泣いた。ボロボロ泣いた。
さらに、猗窩座の単行本での鬼になったエピソードを思い出し、さらに涙を拭いた。
「許してくれ!俺を許してくれ!頼む、許してくれ…!」
 
確かに、映画は感動した。
だがその上で敢えて書かせて頂く。
この映画は、250億稼ぐ程の品質で制作された映画ではないし、恐らく制作陣もこれほど稼ぐ事を意図して作ったわけでないと推測する。

 ウイキペディアを参照する限りでは、鬼滅の刃アニメ化は、元々アニプレックスのプロデューサー高橋祐馬氏が集英社に提案した話だという。

アニプレックスの事業内容は以下の通りである。
アニメーションを主とした映像および音楽作品の企画製作を中心に、パッケージ商品の発売、各種作品の劇場配給・番組販売・配信、ゲームアプリやフィギュア・アパレル等の派生商品の開発、ミュージカルやイベント等のライブエンタテインメントの開催、オンライン・セレクトショップ「ANIPLEX+」の運営等、それぞれの領域でのビジネスを全世界規模で手がけています。
 
しかも、この高橋氏、Fateシリーズの宣伝プロデューサーでもあったという。
この業界には詳しくない私でも、Fate/Grand Orderアニプレックスのドル箱であり、クッズの売上を通じて巨額の収益を同社にもたらしたことくらいは知っている。
 
これは推測だが、アニプレックス鬼滅の刃Fateシリーズのようにグッズの展開がしやすい作品だと判断し、アニメ化の話を持ち込んだのだろう。
だからこそFateシリーズと同様にアニメスタジオ・ufotableに制作を依頼した。コレ自体は2匹目のどじょうを狙う確実な戦略であり、企業側としては極めて正しい動きである。
 
だから、映画にしても、あくまでテレビアニメをすべて視聴した人だけが楽しんでくれればよいと思って制作していたフシがある。登場人物紹介や今までの過去エピソードを削っているのは、その証左である。映画の観客は、鬼滅アニメ履修済みというよく訓練されたアニメファンのみを想定しているのだ。
そのため、あまりにも映画で映像のレベルを上げてしまうと、今後確実に予定されているであろうアニメ2期の映像がどうしても見劣りしてしまう。だからこそ、あえて映像や音楽の水準や映画もテレビ放映時と同水準に合わせて作ったようにみえた。むしろ品質としてはテレビアニメの2時間スペシャルに近い。(もちろん、ufotable社の高品質な能力があってはじめて可能になることである。)
だからこそ、声優には芸能人をキャスティングする必要もなかった。そこまで売れることを想定していなかったのだ。
以上を踏まえ、個人的には当初の想定されていた興行収入は、20億程度だったと考える。(上司の見立ては5億だった。確かにファンムービーならば、5億でもアニメ2期制作の投資判断は承認されるだろう。)
 
繰り返すが、この映画自体は250億稼ぐ程の品質で制作された映画ではない。しかし、だからこそ、煉獄さんが『千と千尋』を超える瞬間を見てみたいと考える。
 
この国のアニメの興行収入1位は、ご存知『千と千尋の神隠し』である。

日本歴代興行成績上位の映画一覧 - Wikipedia

 

この国において、アニメで大きな興行収入を上げるには、普段アニメの映画を見に行かない人たち(ライト層)に劇場に足を運んでもらわねばならない。
ライト層が映画を評価する基準は以下の2つである。
  1. 誰が作ったのか?(有名な監督が制作しているか?)
  2. 誰が出ているか?(著名人が出ているか?)
特に2は極めて重要で、声優にアニメや洋画の吹き替えを多く担当してきた職人をアサインするよりも、マイクの前の演技が微妙な著名人をアサインしたほうが、マスコミが広告宣伝費を投じなくても番組で勝手に宣伝をしてくれるため、一般認知度も上がる。この単純接触効果により、封切られた瞬間、一気に興行収入は激増する。
ソースは失念したが、上記の興行収入ランキングを見る限りでは、ジブリは『もののけ姫』の成功により、職人声優をメインで使う道を放棄した。
この「芸能人をキャスティングする事で、宣伝費をかけなくてもテレビが勝手に宣伝するエコシステムを作る事で興行収入をブーストさせる」という手法はあまりにも強力でり、新海誠監督すらもそれに頼らざるを得なかったところはある気がする(なお、『君の名は』は、3日間ほど多幸感が取れなかったほど好きな映画である)
 
繰り返すが、ディズニー以外の日本のアニメで興行収入を稼ぐには、以下の2点が重要で「どんな内容なのか?」はあまり重要ではない。
  1. 誰が作ったのか?(有名な監督が制作しているか?)
  2. 誰が出ているか?(著名人が出ているか?)
マーケティング戦略としては、これ以上ないほど大正解である。
 
だがしかし、だ。
 
鬼滅の刃 無限列車編』は、その両方とも満たしていない。
監督も声優陣も、普段アニメを見ていないライト層からしてみれば、ほぼ無名に等しい。
多くの子供も含めた観客は、「○○監督の作品」でも「推しの○○さんが声優に初挑戦した映画」でもなく、『鬼滅の刃』を見に行っているのだ。単行本を見れば、映画の結末もわかっているのに、だ。
 
近年、こんな事があっただろうか?
 
そして、その映画が、マーケティングの戦略の最適解の末打ち立てられた『千と千尋の神隠し』の308億を喰おうとしている。
 
信じられるだろうか?
 
よもや、よもやだ。
 
マーケティングの教科書から考えると規格外の弱小勢力が、マーケティング戦略の最適解によって作品を超える……きっとその先には、新しい、もっと面白い歴史が始まることだろう。
面白い。まったくもって実に面白い。
記録を塗り替えるその日が、実に楽しみだ。
 
(追記)
11/24現在、259億までいった。以下のプレゼントがどれほどの効果があるかはわからないが、早ければ2020年内には歴史が変わる瞬間を目撃できるかもしれない。
 (追記2)
ついに、歴史が塗り替わった。