最近の少年漫画は油絵から水墨画になった~鬼滅の刃、呪術廻戦を見て感じた事

アマプラで呪術廻戦を見てる。先日、ついに26話見終わった。

 

呪術廻戦 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

呪術廻戦 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

 

鬼滅の刃、呪術廻戦を見ていて感じるのだが、最近の少年漫画の書き方は、油絵方式から水墨画方式になったと感じている。

 

私が学生時代に好きだった『うしおととら』や『ワンピース』といった漫画には、新しいキャラが登場したり、新しい場所に到着すると、必ず主人公達がそのキャラと人間関係を深めたり、新しい場所を説明するためのエピソードが必ず挿入されていた。

キャラの感情や設定、人間関係の導線に矛盾が無く、それこそ油絵のように隙がなく描きこまれていた。


しかし、鬼滅や呪術廻戦は異なる。基本的にはストーリーに必要不可欠なエピソードだけ盛り込み、キャラ同士が関係を深めるエピソードは小説版や二次創作で読者が相互に補完する事を前提に作られているように思える。言うなれば、基本構造だけ描き、空白部分は読者が各々勝手に描く事を推奨している水墨画のような構成だ。


その仮説を自分が明確に意識したのは、鬼滅の刃でカナヲと伊之助が童磨と戦うエピソードだ。アニメしか見ていない方にはネタバレをご容赦願うが、このエピソードでカナヲと伊之助は相互に協力して童磨を倒す。エピソード自体は素晴らしいのだが、個人的には大きな違和感を持った。


「そもそも、お前ら、そんなに仲良かったっけ?」


そもそも無口なカナヲは、かまぼこ隊では炭治郎以外と会話している描写が殆どない。

しかし、このエピソードではカナヲは伊之助を下の名前で呼び、伊之助もカナヲに軽口を叩くほどの人間関係を構築している。

従来の油絵方式では、これほどの関係を深めるには、少なくともカナヲとかまぼこ隊で複数のミッションをこなすことで関係を深める必要がある。

だが、そのエピソードでは本編では書かれずに、いきなりカナヲは饒舌になり、伊之助や禰豆子と仲良くなる。

 

※そのミッシングピースを埋めるのは、鬼滅の刃では、本編ではなく公式小説となっている模様

dic.pixiv.net


同じような構造は、呪術廻戦にも見られる。

釘崎野薔薇と合流しての初エピソード後、従来の油絵方式であれば、釘崎野薔薇の目を通して呪術高専の施設やセキュリティについて説明や、それに伴う虎杖との共闘エピソードが挿入されるはずである。

正直、そのほうが、次の少年院のエピソードにおける釘崎の涙に納得感が増す。

しかし、本編ではそのあたりのエピソードがごそっと削られている。

また、その少年院のエピソード後に2年生の先輩達が登場するが、ここでも釘崎は禪院真希と凄い速度で仲良くなっていく。

いや、皆様の言いたいことはわかる。

客観的には数ヶ月間一緒に修行してるので、仲良くなって当然なのだが、そのあたりのエピソードがないため、アニメだけ見てると、なんかすんごい速度で仲良くなっているように見える。


このように、少年漫画の書き方のトレンドが油絵方式から水墨画方式に変化した理由は以下の2点であると推測する。

 


1)人間関係を深めたり、設定を説明するエピソードは読者の人気がなく、アンケートの順位が低くなる

gendai.ismedia.jp

 

それから、連載作家の評価軸は「コミックスの売上は関係なく、本誌のアンケートで訊いている『今週おもしろかった作品3つ』の順位で評価される」と決まっています。「毎話毎話人気である」ことが連載続行の可否に関する一番の指標になっているマンガ編集部は今では「ジャンプ」だけじゃないでしょうか。

 毎話毎話人気である、ということは、人気が下がるリスクのある余計なエピソードを削るという動機づけが働く。ではこの削られるべき余計なエピソードとはなにか?それこそ、キャラ同士が人間関係を深めたり、作者の考えた設定を語るエピソードである。

 


2)1)のエピソードを二次創作という形で対応を促した方が関連市場が拡大し、結果としてコミックスや映画等の売上が最大化する。

私個人は、二次創作界隈の分野は素人であるが、その素人私でも、以下の3つが二次創作界隈において大いに盛り上がったことくらいは把握している。

 

例1) 鬼滅外伝

 この鬼滅外伝は、作者が監修としてしか関わっておらず、絵のタッチも大きく異なるため、個人的には二次創作であると位置づけている。

しかし、滅茶苦茶売れた。

game.watch.impress.co.jp

あわせて、同日に発売された「鬼滅の刃 外伝」は週間売上85.9万部で2位

正直、二次創作作品は、100万部近く売れるなど、ほとんど記憶にない。

 

 

例2)ぎゆしの

dic.pixiv.net

pixivでこのタグで検索すると、まあ出てくる出てくる。これだけ作品があるのであれば、同人誌も相当な金額を売り上げているものと推察する。

正直、この二人、本編でもほとんど絡みがなく、しのぶが死んだときも義勇はほとんど表情を動かさなかったことから、個人的には「いや、どこに二人がくっつく要素あるん?」と心から疑問だったのだが、私のような意見は少数派らしい。

 


例3)安室透

dic.pixiv.net


おかしい。名探偵コナンは推理漫画のはず……しばらく読んでいない間に、一体何が起こったッ……!?

 


こうしたトレンドの変化は、不可逆である。

油絵を見慣れた老害には一抹の寂しさがある。しかし、悪いことばかりではない。

 

最近、油絵方式の雄たるワンピースを見ていても、このところ登場人物や新エピソードが頭に入らなくなってきた。

 

自分の頭が老化してきているのだ。

油絵はエピソードを消化するのに体力と若さを必要とするのである。そうした中、描写が最小限に抑えられた水墨画方式は老化した脳に優しい。

 

老化した身には、トレンドの変化は悪いことばかりではないのだ。